2015年10月10日
パブリック・リレーションズ(PR)は最短距離で目的/目標達成を可能にする21 世紀最強のリアルタイム・ソフトウェアである。リアルタイム性を持ち最短距離で成功に導くPR戦略の構築に不可欠となる具体的手法、「PRライフサイクル・モデル」を以下に紹介する。
PRライフサイクル・モデルの概要
「PRライフサイクル・モデル」(図1)は、さまざまなパブリック(ターゲット)やステークホルダーとのリレーションシップ・マネジメント(良好な関係性の維持・発展)に欠かせないプロセスの体系であり、あらゆるPR戦略構築の基本となるものである。このモデルは、環をなす継続的な活動であり、総合的PR戦略だけでなくプロジェクトベースのPR戦略を策定する際にも活用できる。
PR会社にとってクライアントは企業に限定されるわけではなく、その対象は国家(政府関連機関)であったり、団体あるいは極端な場合、個人(例えば選挙キャンペーンにおける候補者)であったりもする。また、その活動エリアも国内にとどまらず海外も包含しており、グローバルに対応できるモデルである。
図1:「PRライフサイクル・モデル」
また、PRライフサイクル・モデルは図1が示すように環をなす継続的な活動であり、そのサイクルは「自己修正機能」によって、スパイラル的に高次元化するモデルである。展開の出発点は、組織体(公共機関や企業、NPO・NGO法人、各種団体など)があらかじめ掲げている「ゴール」(全体目標)で、中・長期的な視点に立った継続的で戦略的なPR活動により達成されるべき目標(目的)となる。
リサーチ&シチュエーション・アナリシス
パブリック・リレーションズ活動の出発点は、組織体の国内外における現状を把握・理解するための「リサーチ&シチュエーション・アナリシス」となる。特に戦略的なPRプログラムの構築には、十分なデータ収集と分析が担保されなければならない。それらのデータに基づいて組織体自体が競合会社と比較してどこに優位性があるのか、差別化できる要因は何かなどのプラス面、逆にウィークポイントは何かといったマーケットでのポジショニングを明らかにするほか、マーケティング活動やコミュニケーション活動のレビュー、メディアでの取り上げられ方などポジティブ(肯定的)あるいはネガティブ(否定的)なパースペクティブ(見通し)を確認する。
PR 目標(目的)の設定
「リサーチ&シチュエーション・アナリシス」で収集した基礎データに加え、経営目標とマーケティング目標をベースに、「PR 目標(目的)の設定」を行う。
パブリック・リレーションズの目標は、中・長期的な視点に立った継続的で戦略的なコミュニケーション活動により達成されるべきゴールである。企業であれば、年間売上高を10%増にするとか、新製品を100万個販売するといった目標は、それぞれ経営目標でありマーケティング目標ではあるが、ここで取り上げるPR目標とは異なる。パブリック・リレーションズは、組織体(企業)あるいはその事業活動や製品・サービスに対する認知や好感度を対象(ターゲット)となるパブリックをはじめとして関連市場や業界、広く社会に高めていくためのコミュニケーション・ベースの総合的なリレーションズ活動であり、結果的に「ゴール」としての経営目標やマーケティング目標の達成に寄与できるものでなければならない。
企業の置かれている状況によって設定すべきPR目標が異なってくるのは当然のことである。しかし、PR目標には発信すべき情報として「企業理念」、「経営目標」などのほか、競合企業との差別化を図るために強く打ち出すポイント、優位性を印象づけるためのメッセージの策定が含まれるが、倫理観ベースのコンプライアンスを意識することが肝要である。
ターゲット設定
PR目標の設定に続いて、具体的に対象(ターゲット)を設定することになる。対象(ターゲット)の設定は、何(PR目標)を、パブリック(一般社会)の誰(対象:ターゲット)に対して、双方向でコミュニケートしていくかという図式を完成させることであり、「PR戦略の構築」以降の方向性を決定することである。
そして、設定すべき対象(ターゲット)は2種類に区別される。第1は「ビジネス対象(ターゲット)」であり、第2は「コミュニケーション・チャンネル」である。
ビジネス対象(ターゲット)
ビジネス対象(ターゲット)は多くの場合、組織体(企業)が提供する製品やサービスを実際に購入する層のことであり、PR的な視点からすれば「発信する情報を確実に伝えるべきパブリックの中の最終対象(ターゲット)」ということができる。PR活動の主体が国や地方自治体であれば、ビジネス対象(ターゲット)という呼称は適切ではなく、そのサービスを受ける国民や市民ということになる。
ビジネス対象(ターゲット)として先ず顧客があげられる。これは、現在の顧客だけでなく将来的に顧客となりうるポテンシャル層も含まれる。ほかには、製品やサービスを流通・販売するディストリビュータ(販売代理店、小売店)やビジネスパートナー(出資企業・業務提携先企業など)も対象となるし、金融・証券市場から資金調達を行うことをPR目標に掲げている企業では、投資家(機関投資家・一般投資家)なども対象(ターゲット)となる。
一方、株式公開予定のない私企業にとって、投資家はビジネス対象(ターゲット)の範疇に入れる必要はないし、直販方式をとっている企業ではディストリビュータはビジネス対象(ターゲット)にはなりえない。
つまり、ビジネス対象(ターゲット)となるのは企業の業態やPR目標によって可変的なものとなる。複数のビジネス対象(ターゲット)を設定した場合には、そのプライオリティ(優先順位)もあらかじめ考慮しておく必要がある。
コミュニケーション・チャンネル
コミュニケーション・チャンネルとは、情報提供者(企業や組織体、各種団体など)が発信するメッセージやニュースをより広範な対象(ターゲット)に効果的に伝達する増幅機能をもつメディアや組織、人(インフルエンサー)を意味する。
そのなかでもメディアはコミュニケーション・チャンネルとして重要である。例えば、発行部数が980万部の読売新聞(朝刊)に組織体の情報が記事として掲載されることになれば、日本全国で980万を超える読者に回読され、その情報に接する可能性を持つことになる。また、NHK、民放5社のテレビネットワークは全国を網羅し、重大なニュースは瞬時に全国を駆けめぐり、その視聴覚に訴える影響力は極めて大きい。加えてオンラインメディアも新興のコミュニケーション・チャンネルとして対象となる。
これらのメディアが報道する内容については、社会的な信頼度は高く、世論形成に与える影響も大きい。しかも90%以上のメディアが東京に一極集中しており、きわめてコストパフォーマンスの高いメディア・リレーションズ展開を可能としており、コミュニケーション・チャンネルとしてメディアが重要視される所以となっている。しかし、これらのメディアへの情報発信は一方的なものであってはならない、メディアからのフィード・バックにより必要な際にはいつでも修正できるように、双方向な流れと関係をメディアとの間で構築・維持しておかなければならない。
PR戦略の構築
PR目標と対象(ターゲット)の設定ができると、いよいよ戦略の構築に入る。PR戦略を構築することにより、何(PR目標)を、誰(対象(ターゲット))に対して、どのような方針(戦略)でコミュニケートしていくのかという、パブリック・リレーションズ活動の骨格が形成されることになる。
PR戦略を構築することは、設定したPR目標を、倫理観を支えに対象(ターゲット)に対してコミュニケートするための方針を確立させることであり、これによって、次のプロセスである「PRプログラムの作成」の具体的内容が決定され、さらに次の「インプリメンテーション」への流れを方向づけることになる。
PRプログラムの作成
PRプログラムは、PR戦略を実現するための具体的戦術であり、個々の活動項目がプログラムに該当する。つまり、PRプログラムはPR戦略によって方向づけられ、その内容は構築されたPR戦略によって千差万別である。
PRプログラムの作成にあたっては、次の5つの点に留意しなければならない。
第1は、具体的で実現性のあるプログラムを作成することである。また、実行すべき内容が具体的で明確なプログラムであっても、実行することが不可能であったり、過剰な困難を伴うものであっては現実的なプログラムとはいえない。実行内容が明確で実現可能なプログラムであることを念頭におきつつ作成しなければ、有効なPRプログラムとはならない。
第2は、PRプログラムの実施スケジュールである。PR戦略に沿ったプログラムは複数のプログラム群であることが一般的である。最も効果的な結果を得るためにプログラムの優先順位を決め、優先順位の高いプログラムを中心に実施のタイミングと時期の調整を考慮しておかなければならない。
第3は、予算計画である。パブリック・リレーションズ活動全体の予算を前提として、PRプログラムはその予算枠の中で最大限有効な結果を得られるという観点からプランを練る必要がある。
第4は、組織体(企業)とアウトソーシングする場合のPR会社など外部コンサルタントとの役割分担である。PRプログラムの個々の内容を実行段階で誰が担当するかを明確にしておくことは、スムーズにプログラムを実践していくためには不可欠な要件となる。
第5は、企業内であれば経営トップと広報担当責任者、外部コンサルタントとの関係で言えばクライアント企業との間のコミュニケーションシステムの確立である。グローバル化の進展に伴い、企業の本社機能と支社機能が国境をまたぐことはめずらしくなくなっている。
そのためPRプログラムの実施に際して、実務家と経営トップやクライアント企業との間のコミュニケーションが混乱しないように必ず双方の窓口を明確にしておく必要がある。つまり、常に双方向の環境を維持することが重要となる。
インプリメンテーション(実行)
インプリメンテーションとは、PRプログラムの実行である。例えばメディア・リレーションズであれば、プレス・リリースを定期的に配布したり、ニュース・バリューの高いトピックスについて記者会見を催して発表したり、プレスツアーを組んで新規の設備(研究・開発センターや工場など)を取材してもらうなどさまざまなプログラムが計画される。
インプリメンテーションで重要なことの第1は、実施スケジュールに沿って、また設定された予算枠の中で確実にPRプログラムが実行されることである。
第2は、PRプログラムを計画どおりに実施した結果が、その効果が期待値以下であった場合、すぐにその原因を分析してカウンタープラン(対応策)を立案してカバーすることである。例えば、記者会見を開催したが、その後の記事の掲載が期待値以下であった場合、即座に個別インタビューを実施したり、特定のメディアを選んでブリーフィングを行うなどの方法でカバレッジを回復させていく。プログラムは多岐にわたっているために、状況の変化によってすばやく必要な修正を行わなければならない。
「自己修正機能」の源泉となる情報の分析・評価
そして、これら一連の活動の締めくくりが「活動結果や情報の分析・評価」となる。PR戦略に基づいたコミュニケーション活動の結果が、あらかじめ設定したターゲットや業界、社会に対し、どのような効果および影響をもたらしたかについて公正に分析・評価する。
分析評価には、ステークホルダーへのヒアリングやインターネット調査、報道分析(当社ではコンピュータ分析手法のCARMAを使っている)などさまざまありるが、発信した情報をフィードバックすることで「自己修正機能」が有効に機能することになる。
図2:PRライフサイクル・モデルにおける「目標のレイヤー」
図2はPRサイクル・モデルの7つのコンポーネントにおける目標(ここでは事業やビジネス目標)のレイヤーを示します。
例えば、T自動車会社が「30兆円企業を目指す」という大目標を設定したとします。その際の中目標は、営業部門であれば輸出比率を10%上げること、海外部門では生産工場の拡大、人事部門は海外従業員の増員計画などが設定されよう。また、これら中目標の達成に向けて、細分化された事業目標(小目標)が求められる(さらに下位のレイヤーもありうる)。
このように、それぞれのレイヤーで事業目標を設定し、7つのコンポーネントと有効に連動させることで、PRライフサイクル・モデルの螺旋階段を一歩ずつ昇っていくことができる。そして、スパイラル的に次のステージへとパブリック・リレーションズ活動を高次元化させることができるのである。
※井之上喬著『パブリック・リレーションズ』(日本評論社、2006年)より一部引用